俺がスピードキューブにハマるまでの話(仮) 大学生編
前回の続きです↓
俺がスピードキューブにハマるまでの話(仮) - [はまきゅ~活動中](非公式)
大1
大学の新入生イベントに臨む。あまり気は進まなかった。他人との会話を忌み嫌う俺には苦痛以外の何物でもない。
小1の時だったと思う。
自分の席を挟んだ前後の子同士で盛り上がっていた。共通の話題の内容が気になって会話に加わろうと笑顔を向けた。が、
「ジャマせんといて」
理由もなく真顔で拒絶されてしまった。「ゴメン」とポツリ、自分が何かやってしまったのだろう、と思い込んで前を向いた。
以来、小・中・高と、自発的に話しかけることはほとんどなくなってしまった。対話の基本である「相手の目を見る」ことすらまともにできなくなった。自分のようなひねくれ人間が他人様に話しかけるなど、あってはならない、絶対悪なのだ。「対人恐怖症」と言えば仰々しいのかも知れないが、そんな思考に支配された。そんな自分でも話しかけてくれるよっぽど心優しい友人に恵まれたのが幸いだったが、それ以上に交友関係を自力で広げる努力をしない人生になってしまったのである。
...しかし、そんなアホなことは言ってられない。
どうにか振り絞ったなけなしの積極性に一縷の望みを託した。
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帰路。溜息を漏らす信号待ち。
質問に答えるとか、空気を読むとか、俺なりに努力はしていたつもりだ。
だとしても、たった数時間の努力で性格や価値観の矯正ができるはずがない。
(ダメだ...周囲の人間との価値観が違いすぎる...)
克服はおろか、10年来のトラウマをひきずる結果になってしまった。交友関係の構築を諦めた瞬間である。
自室に戻り、力なく鞄を放り投げる。
ふと、親に言われたことを思い出す。
「サークルに入って、アルバイトをやった方が良い」
...できるか!!!!!
他者との対話を絶対悪と決めつけている今の自分ができるなら、誰だってできるだろうが。
大学を卒業すること。決して容易いことではない。
ほぼ1人で4年間を乗り切るためには、安定的な精神状態が不可欠。
大学生活、一人暮らしという環境の変化を受けることを考えれば、バイトやらサークルやら、ただでさえ乱れる精神状態を自らかき乱す行動をとるなど、ただの愚行に他ならない。
親への反逆心を込めて、大学生活の目標を立てた。
・アルバイトしない
・サークルに入らない
・友人を作らない
・無駄な外出はしない
こうして、大学と自室を往復するだけの生活が始まった。
他に余計なことは考えなくて良いのだ。
難しくなかった。ほとんど苦にならなかった。
全身が痒くなるほど悶え苦しんだのはグループワークくらいだ。
人見知りで消極的な性格の人間からすれば、これほど直接的な地獄はそうそうない。
寝ぼけ眼を隠すように黒キャップを目深に被り、自転車に乗り込む。
一人で講義に出席し、一人で食堂に並び、一人で帰る生活。
スーパーと百均以外への外出は一切禁止。
当然、何も変化はない。
「引きこもりもどき」生活はそのまま1年経ち、2年が経った。
入学当時に抱えていた多少の物欲、外出欲はいつの間にかほとんど消滅していた。
むしろ、不要な変化を異様に忌み嫌う性格へと昇華を果たしたのである。
グループワークの同期からは「修行僧かよ」と笑われた。
電話の向こうの親からは「寂しくないの?」と嘆かれた。
通話を切る度に、「誰のためだと思ってんだよ...」とつぶやいた。
取り柄のない自分自身のため。
長期的な目標を達成したことのない自分。
自分自身の能力の証明で見返すこと。
自分の意見の正当性を自分の行動で示すこと。
そこに意味を見出そうと抗っていた。
大学にまで進ませてくれた親のため。
食費以外の出費は極限まで抑える。
物欲を減らす。外出欲を減らす。外食、寄り道を禁止する。
自ら進んで自室と大学の往復に専念した。
"余計な"ことはしない。仕送りしてもらっている立場でいる以上、それがせめてもの恩返しのつもりだった。
全ては「大学生活のすべてを懸けて挑んだ証明」だったのだ。
そのまま、何一つ変化のない大学生活の開始から2年半が経過したある日のことだった。
突然、自ら拒んでいたはずの青春を欲する瞬間が訪れるのである。
...続く